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映画「告白」、久々に原作を超える作品だった

映画「告白」鑑賞しました。

小説「告白」を読んで「映画は観に行かない」と決めたんやけど、松たか子がドンピシャな役だったのと、泣き叫ぶ木村佳乃を観に行くだけでも価値はあると考え直しました。

あと決定打になったのは、監督・脚本の中島哲也で、作品には「下妻物語」「嫌われ松子の一生」などがあります。残念なことに「嫌われ松子の一生」は観ていないけど、かなり昔に観たっきりなのにもかかわらず「下妻物語」の演出が素晴らしかったことはいまでも思い出せます。たぶん演出の仕方が好みやったんやろうな。だから「告白」も中島監督カラーが押し出た独特の雰囲気がある作品になるはずと確信した。彼の作品と知る前に観た予告編に惹きつけられたのは彼のカラーが伝わってきていたからなんやろうな。

期待と不安が入り交じった、ちょっとおかしなテンションで映画館へ行きました。いつもはできるだけネタバレにならないようにしとるんやけど、今回はネタバレ全開なので、ご注意ください。

とにかくよかった、おもしろかった。
悩んだけど、観に行ってよかった。
徹底的に救いようがなくてゾクゾクした。

悲しいのか怖いのかやるせないのか何の感情かわからないけど、ズシンと何かに乗っ取られたみたいな気持ちで泣いていた、気がつかないほど自然に。

序盤は不安の方が大きくて「大丈夫かな、大丈夫かな」とドキドキしていました。でも、作品の主人公森口悠子(松たか子)のある台詞で、安心して鑑賞することができました。

「桜宮正義先生は私の夫であり、愛美の父親です」

小説でどうしても見つけられなくて、整合性が取れないのが気になっていたこと、映画ではしっかり語られていました。たった一言だけど、この台詞で不安が大きな期待に変わりました。

映画も小説と同じように、森口の最後のホームルームから始まります。そして、森口の娘に手をかけた少年A、少年B、少年の母親、少年の姉、委員長の美月の視点へと移ります。小説だと1人1章になるけど、映画では絶妙に何人かの視点を組み合わせていて、小説のページを戻して、また進めてというような表現の仕方がされていました。1人1人がだいたい同じ期間のことを語っているので、2人、3人の視点を重ね合わせることができるんやよな。これは映画ならではやと思う。

松たか子のさりげない表情と変化していく顔色、言葉なしで表現する迫真の演技は期待通り素晴らしかった。楽しみにしていた木村佳乃も想像以上の狂いっぷりで、気持ちよかった。ウェルテル役の岡田将生は「バカ正直」という言葉がピッタリなピエロ役を演じきった。ストーリーの中である意味一番かわいそうやった。橋本愛演じる美月は、ビックリするぐらいかわいかった。瞳に吸い込まれそうになるとはこのことやな。ザ・美少女! 最後の爆発シーンは大がかりなわりにチープで興醒めやったけど、逆回り時計の伏線だから、仕方なかったかな。最後の最後に不安がよぎったけど……。

修哉、直樹、美月の3人が織りなす告白は、危なっかしくて、薄くて、透き通っていた。観ているだけでハラハラする感じやった。

全体的に情景描写が繊細で、青空や夕焼けの空の色が泣けるぐらい美しかったり、重くてしんどいストーリーなのに明るい音楽がかかったりと、13歳という年齢の不安定さを感じられた。子どもって本当に残酷で、何かを消してしまう、消えてしまう重みをまだ知らない。「何か」がただのペンであっても、隣に座っている友達であっても、同じこととして感じられちゃう。大袈裟かもしれんけど「告白」を観て、自分も10代の頃はそういう危うい感覚があったなぁと思い出した。

「結局森口は救われたのかな」と、ずっと考えとるんやけど答えは出ません。ただ、彼女は大人なので消えてしまう重みを知っています、もう何をしても元通りにはならないことも知っています。だからこそ、生徒達に「命の重み」を伝えたかったのかもしれません。そこにある感情は怒りや憎しみで、怖ろしいぐらい用意周到に愛娘が殺されたことへの復讐を果たします。ただ、復讐を達成したところで、何も変わらないことを彼女はわかっていたはず。どこにぶつければいいのかわからない感情ではない、伝えたい気持ちがあったからこそ、復讐という形で彼女を動かしたんだと思う。たまに見せる感情のブレが痛々しさに拍車をかけました。

最後の最後に修哉が言った台詞にかけて「な~んてね」と言う森口は、少し優しい顔で安心した。報われることは決してないし、彼女自身も一生背負わないといけない罪を背負うことになったはず。それでも、あの瞬間は心穏やかだったんだろう。真っ暗闇の中を生き続けることと引き替えに、一瞬の平穏を手に入れられたのなら、それは幸せなことかもしれないな。

個人の考え方はそれぞれやけど、私は原作至上主義なので映画が原作を超えることはないと思っています。ごくたまに超えることもあるんやけど、私が読んだ小説の中で映画化されて鑑賞した作品となるとそもそもの数もそんなに多くないので、いままで数えるほどしかありません。しかも、超えるときは、情景や景色の表現の部分で視覚化した方が伝わりやすい場合で、ストーリー展開については小説の方が入ってきやすい。「告白」は映画化することによって、小説を超えて、その上小説の足りないところを補完したと言っても過言ではない。

たしかにハリウッド映画みたいに「おもしろかった!」とスッキリ言えるような作品ではありません。誰もが「おもしろかった」という作品でもないと思います。でも、この徹底的な救いようのなさ、やるせなさ、はもはや美しかった。徹底的に救いようのない話が好きなので、めまいがするほどおもしろかった。

私はものすごく気に入ったけど、賛否両論分かれるのもよくわかります。この作品に限っては、一度原作を読んで「おもしろい」と感じられたら、映画館へ行くことをオススメします。

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おすすめ度の平均: 3.5
5 あまりにも、眼を逸らせない
4 絶望は面白い。
5 普通に面白いです
4 1章しか読まなかったらただ単に「面白い作品」だったのだが
5 面白いがこわいかも

コメント (3)


    

松さん、ぴったりですよね!

映画すごく観たいんだけど、DVDでるのまとうかなーとも思ってます。

原作のあの緊張感がどういう感じで映像化されるのか楽しみです。


    

はぢめまして。自分もこの映画好きです。
原作読んでないんだけど「松たか子が子持ちか・・」ということで観るのどうしようかなと思ってたんですよね。原作と映画は別物だしw。
でも見たらビックリ!出演陣はキチッと演技してたしw。なにより中島哲也監督の演出が素晴らしい。何気ないショットでも意味内容でいて伏線が絡んであるし。計算されてるなぁ・・と思いました。
あんな題材を軽くもなく重すぎもさせないさじ加減が素晴らしかったです。

あなたの言うように寺田先生の立ち回りはちょっと可哀想だったと思います。というかKYで引くw。「いったいいつの時代の教師なんだ!」みたいな。


    

>p-articleさん
不幸な役が似合う年になったんでしょうね。これからも楽しみです。

>ブリさん
コメントありがとうございます。たしかに中島監督の演出が素晴らしかった。期待していなかったので、余計にいいなぁと思ったのかもしれないです。

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