久々に小説のレビュー。「深紅」は吉川英治文学新人賞受賞を受賞した作品で、昔読んだことがあったんやけど、久々に野沢尚さんの作品が読みたくなって引っ張り出した。彼の小説はのめり込むように読んでしまうことが多くて、気がついたら明け方なんてことも・・・。今回も「あれ? もうこんな時間?」とか言いながら、完読しました。
相変わらず細かな描写が行き届いていて、文字を読んでいるはずなのに、まるで映像を見ているような感覚にさせられた。情景描写はもちろんのこと、心情描写の鋭さに圧倒されてしまう。だから、彼の作品を読んだあとはどんな内容であっても怖くて仕方ない。
一家惨殺事件で生き残った娘、奏子と犯人の娘、未歩の出会いから別れまでを描いている。主人公は奏子で、語り手も彼女。
1人生き残ってしまった奏子は「自分は生きていていいのか」という疑問を持ち続け、加害者で死刑が決定した父親を持つ未歩も「自分も一緒に殺せばいい」と思っている。まったく立場の違う女の子が同じ気持ちを抱いて生きていることでストーリーが繋がっていく。
途中で奏子の「闇」の部分が強すぎて読むのがしんどかった。事件が起こってからずっとため込んできていた気持ちはこれほどまでに暗く、深いものだったということを見せつけられた。ただ、奏子の中で、何とかして闇を放出したい気持ちと未歩への復讐を止めようとしている気持ちが葛藤していて、時間が少しは何かを解決したのではないかなと思わせた。
ミステリーやサスペンスでよくある、起こった事件を謎といていくわけでなく、事件が起こってからの暮らしを描いているだけだが、切羽詰まった感じがひしひしと伝わってくる。ニュースや新聞で報道される「事件」は犯人が捕まったら解決するけど、そんなのは全然解決じゃなくてむしろ事件の始まりなのかもしれないな。
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