「それでも町は廻っている」の石黒正数さんの短編コミック。実は「それでも町は~」にハマれなかったのでこの作品にもあんまり期待してなかったの。一緒に読んだマンガがわりとネガティブやったので、平和的なストーリーがいいなと思って読んでみました。
想像以上におもしろかった! 絵がキレイなので読みやすかったし、短編なのであんまり気負わずに進められた。貸してもらった友だちにも「短編のがおもしろいかも」って言われとったんやけど、まさにその通りでした。
鯨井ルカと入巣柚実は大学の女子寮で一緒に暮らす、先輩と後輩。ルカはバンドでプロデビューを目指しとって、柚実は目下自分探し中。2人が違った形で毎日を悩んで生きていく姿を描いてます。
学生特有のモラトリアム期っていうのかな? そういう悶々とした感じがよくわかる。短編やから大きな出来事をたくさん入れられないんやろうけど、ハプニングが起こらないので、リアルに感じられた。レコード会社にスカウトされてどんどん有名になっていくルカの存在は全体的に少数派やと思う。ただ、そういう存在を登場させることで、取り残されていくありすの気持ちが読者に伝わりやすかったんじゃないかな。「先輩みたいになりたいわけじゃないけど、夢に向かってまっしぐらな姿は羨ましい」みたいな、羨望の気持ち。ルカはルカでとんとん拍子に進むデビューの話に戸惑いつつ、ベルトコンベアーに流されていくことに違和感を感じとったんじゃないかな。
この作品はそういう悶々とした悩みを全部登場人物にしゃべらせとるん。回想として出てきそうな台詞も吹き出しの中に入っとる。学生時代じゃなくても「いまの選択であってるのかな?」とか「何が向いているんだろう?」とか、つい立ち止まりたくなることってあると思うの。でもそういう悩みってたぶん解決することってできなくて、たまに思い返したように考えること自体が大事なんやろうな。
思った以上におもしろかったけど、思った以上に考えさせられちゃいました。
少年画報社
漫画家
漫画は、文学に追いついたか?
いろんな顔
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